○身体介護中心・問題対処型ケアの時代
認知症ケアの歴史において、私たちは認知症の人のことを何もわからなくなった人と考えてきました。介護は三大介護と呼ばれる「食事」「入浴」「排泄」という身体介護中心であり、同じ時間に一斉にケアを行うという大規模な集団対処的なケアが行われてきました。また認知症の人のさまざまな症状や行動が介護を困難にさせるやっかいものと考え、その症状や行動をいかに抑えていくかということをケアの中心に考え、安易な抑制などがおこなわれてきたのです。認知症の人の徘徊への対処として回廊式の施設が増えていきました。
○アクティビティ中心の時代
その後、認知症のケアでは、さまざまなアクティビティプログラムが展開されるようになります。施設やデイサービスでは、音楽や絵画、書道、工芸、園芸などさまざまなプログラムを用意し、ボランティアの講師などの力も借りながら、さまざまなアクティビティが行われるようになりました。三大介護中心から比べるとケアはずいぶん前進しましたが、問題なのは、さまざまなアクティビティプログラムを個人が選択するのではなく、そのプログラムに個人を合わせていきたいという点にあります。
○その人を中心に据えたケアの時代
近年になると大規模ケアの反省の中から、グループホームやユニットケアなどが認知症ケアに有効であるといわれ始めました。
イギリスの心理学者であるトム・キッドウッドは、これまでの介護者中心のケアに対し、これからのあるべきケアの姿を「その人を中心に据えたケア(パーソン・センタード・ケア)」という言葉で表しました。これは認知症の人の声に耳を傾け、人生の物語を知り、その人らしく生きていくための支援をすることが、これからの認知症ケアのあるべき姿であると提唱しました。最近ではこの考え方が認知症ケアの主流になっています。